一体型スキャナ&プリンター、ダイエットブック、スカートの下にジャージをはいてる女子高生、寒いのにスタバでフラペチーノを持ち帰りで買う人
ばいさわー
あだしごとはさておきつ、


 エンジョコウサイって一時期はやったよなあとぼんやりしながら渋谷のハチ公前なんてところにつったってたら、「ねーオニーサンこれでどう?」なんて指を三本立てられた。
「はい?」
「ヒマしてんでしょ?」
 ジョシコーセー。
 自分にはついぞ関係のない生き物だと思っていたので驚いた。まっしろなマフラーをぐるんぐるんと首元に巻いて、さっむそうな足元、鳥肌立ってんじゃねえのそれ。スカートの丈が短すぎて、水着の方がまだマシだ。
「付き合ってよ」
 ズルルルル、とストローを啜る。顎のあたりで綺麗に切りそろえられた茶髪に、元カノを見たなんて言ったら張り倒されそうだけれど。うん、と首を縦に振ってしまったのはそのせいだった。意味不明に彼女が啜るスターバックスのカップの中身はもうカラだ。
 傍らに立ってたOLが、けがらわしいものを見るような目つきで去って行った。オフィスレディって死語だっけ。


 で、どこに連れてこられたかってビックカメラだったよね。俺が驚くわ。


「なんで指三本立てたの」
「釣れるかなあって思って。すごいヒマそうだったし、ヒマな男って性欲持て余してるもんじゃないの?」
「偏見だ」
 そう? と彼女はくるりと回った。だからスカートが、くそ、なんで目が行っちまうんだ俺のバカ。家電量販店だぞ、意味わからん。
 彼女はくうるりくうるりと、若者らしい浮かれた足取りででっかい家電の間を行ったり来たりしていた。インクジェット、レーザー、複合型。俺にはどう違うのかいまいちわからない。大学のパソコン室のプリンタはレーザーだったっけ、インクがにじまないヤツだから多分そう。
「どれがいいと思う?」
「わかるか」
「オトナでしょ? わかんないの」
「だから偏見だっつうの」
 彼女の指先がつるりと光る。整えられた女爪。ぴかぴかと輝かせる手法を俺は知らなかった。指の腹まで光って見えるのはスタバのカップの所為だ。何を飲んでたかって訊かなくてもわかった。あそこで透明なカップが出されるのはアイス系だ。あんまりにも綺麗な中身、ってことはチョコレート系クリーム系も除外。
 このくっそ寒いのに、ジョシコーセーってのは化け物か。
「プリンタ欲しくってさー」
「ふうん」
「買ってよ」
「金ねえよ」
「フリーター?」
「大学生」
「バイトは」
「居酒屋」
「儲けてないの?」
「儲かるかよ」
 つまんないの、と彼女はそこで会話を打ち切った。ローファーの靴底できゅうきゅうと床を蹴りつけながら、プリンター、ほっしいなあ、とまた呟く。俺はからっぽの脳ミソで、自分の財布の樋口さんと野口さんに頼むから出てくるなよと念を送り続ける。
「ってかなんでプリンタだよ」
「んー、なんでだろ」
 見返してくる眼には陰りがなさ過ぎてうんざりだ。ファンデーション、マスカラ、色つきリップ。女子高生ってどんな化粧をするんだろう。
「オトナって感じしない?」
「しない」
「そう?」
 するけどなあ、と彼女は言って、それでやっぱり、つるんとした爪で見本品をパチンとはじいた。目の前の、プリンタスキャナ一体型複合機、キューマンキューセンハッピャクエン。たっけえよ。
「ダイエットブックでも買っとけ」
「必要に見える?」
 スカートの端をちらりと持ち上げたボンドガールを真似た仕草で微笑まれて、ほんの少しだけ揺らいだ自分が馬鹿だった。樋口さん、野口さん、ほんとちょっとどっか行ってて頼むから。
 うろうろする店員が俺たちに怪訝な眼差しを向けている。キョーダイです本当ですよ、嘘だけど。
 プリーツスカートなんて久しぶり過ぎて挙動が不審な自覚はあった。
「寒くないのかよ」
 訊けば当然の用に返される、「寒いよ?」そりゃあさもありなん。
「ジャージ履けよ」
「なんでよ」
「目の毒だ、」主に俺の。
 そう? とまたほらくるりとまわる。慌てて眼をそらした俺に魔女みたいにほほ笑んで、「だーいじょうぶだいじょうぶ、」彼女は歌うように言った。
「俺男だもん」


20分でお題もちもち


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